読書案内 Book Review » »タイトル一覧へ戻る



『子育てとケアの原理』

書籍画像

著者:望月雅和(編著)
   西村美東士・金高茂昭・安部芳絵・吉田直哉・秋山展子・森脇健介(著)
出版社:北樹出版
出版年:2018年
出版社書籍案内ページ:http://hokuju.jp/books/view.cgi?cmd=dp&num=1069&Tfile=Data

評者:佐々木 由美子(足利短期大学教授/こども学科長)


 保育者・教育者には、どんなときも子どもの傍らに寄り添い受容する包容力や、子どもの可能性を信じる強さ、そしてそれを裏打ちするための適切な理解と知識が求められる。そのため、保育・教育にかかわる者は、独立したさまざまな分野を学ぶことになる。しかしながら、学習者にとって、個々の学びを関連付けて総合的な学びとして消化することは容易ではない。本書は、こうした学びの区分けによる弊害を極力減らし、幅広い学びを一冊で捉えることができるよう配慮された有用な書籍である。

 チャプター1のテーマは、「教育の意義、目的をめぐって」である。このテーマからイメージする科目は、教育原理であろうか。本書においては、子どもの権利条約を基盤とした教育の意義、目的とともに、多様な子どもたちへの配慮、防災教育の重要性などについても述べられている。さらに、保育者を省察的実践者として、いかに省察することが大事なのかについても述べている。これらの内容は、福祉関連科目や心理学等の科目をも包含しており、教育の意義や目的を総合的に捉えているといえよう。

 チャプター2のテーマは、「教育の思想と歴史」である。ここでは、教育の歩みとそれをけん引してきた人々の思想について述べられている。これこそ教育原理の中で取り上げられる内容の筆頭であろう。ここでの学びは、学習者にとって目の前の子どもに関する学びと違い、難しく感じられるため、ともすると敬遠されがちな内容である。しかし、本書においては、その内容が非常にイメージしやすくまとめられており、特に近代教育の思想家それぞれのポートレートが掲載されていることで、学習者が感興を覚えるのではないだろうか。

 チャプター3のテーマは、「対人関係と相談援助-カウンセリングとソーシャルワークへの招待」である。ここには心理系科目、福祉系科目が網羅されているといえよう。ただ、他書とは異なり、対人理解を医師の診断に例え、科学を駆使して理解するべきとしている点は、大変興味深い。カウンセリングやソーシャルワークの基本的考え方や手法を示しつつも、その入り口は対象者を正確に理解することであるとしていることも、得心がいく。

 チャプター4のテーマは、「教育とケアの法制度-法・人権をめぐって」である。ここには、日本国憲法だけでなく、わが国の法体系から社会福祉における制度、児童福祉における制度、さらには、保育指針・教育要領に至るまで、法制度が幅広く取り上げられている。「人権の尊重」「子どもの権利」などの根拠となるさまざまな法律や制度について解説しつつ、保育者・教育者にとって心がけるべき姿勢が明示されている。「ケアする者」と「ケアされる者」の関係を「支配」と「被支配」に転化しないよう、評者自身も肝に銘じておきたい。

 チャプター5のテーマは、「児童福祉と地域福祉をめぐって-学校・家庭・地域社会との連携」である。ここは、子育て支援の多面的機能が述べられている。児童福祉に関する施設の種類やその対象、目的について概説するとともに、家族の形態が変化している昨今において、地域とのつながり、それを支える人々、世代間交流の重要性が示されている。特に、世代間交流の活動事例を紹介しているコラムは、非常に興味深い。

 チャプター6のテーマは、「生涯学習と市民参加」である。チャプター1で捉えた教育の意義や目的を踏まえたうで、「教育とは学習者の主体性を尊重しながら、主体性の獲得を支援する活動である」としている。そしてその教育を学校中心の教育観から、社会における一生を通じて行う生涯学習という観点への転換につなげるとともに、生涯学習の未来像として、ICTおよびアクティブ・ラーニングの活用、主体的な参画と協働の重要性を説いている。これらは、保育・教育にかかわるすべての者が持つべき視座であろう。

 チャプター7のテーマは、「教育とケアの学びへ-実践のための探求と省察」である。対人援助にかかわる実践においては、さまざまな領域にわたる知識の統合が必要であるとし、教育原理や法学等から体験学習、実習の科目までカリキュラムを統合する「活動による学び」の重要性を説いている。そして、対人援助が、「健全な学び手」による「特定の場所にいる当事者」への実践であるという固定観念に省察を加えるとともに、援助者が当事者である可能性にも言及している。そのうえで、多様な人々が学びの場に参加することを歓迎し、それが現場の変容につながることを示唆している点に、共感を覚える。

 評者は、本書を読み進める中で「子育て」と「ケア」が、さまざまな分野のつながりにより総合的に行われていることを再確認するとともに、自身の保育観・教育観を省察することができた。自分自身の保育・教育における学びの探求と省察のためにも、子どもにかかわるすべての方々に薦めたい一冊である。

 


【評者紹介】

佐々木 由美子:足利短期大学教授/こども学科長